ウチの近所の獣医さんが一番得意な患蓄は、「小鳥」らしい。
子猫を拾った時、「小鳥が得意な人は、小さな動物が得意だろう」と迷わずその獣医さんに連れていった。
獣医さんは子猫を見るなり、
「かわいい顔してるねえ」
と言いつつ、素早く体重を量り、肛門に体温計を突っ込んで熱を測り、A感覚に怒り狂った子猫を3人の助手に抑えさせ、小さな鉗子で虫下しを飲ませた。
その手さばきの見事だったこと!
爪も牙も虚しく空を切るばかりで、心なしか、子猫は悔しそうにしていた。
カルテを書きながら獣医さんは、
「生後2カ月くらい。やんちゃ盛りってところかな」
「いや、おとなしいですよ」
とワシが答えると、獣医さんはナゼか「ニヤッ」と笑った。
本当に、拾った子猫はおとなしかった。小さなダンボール箱にうずくまって、じっとしている。腹が減ったらそっと起きあがり、尻尾を立てて小さな声で「ニャアー」と鳴く。食べた後はゴロゴロとノドを鳴らし、膝の上に乗ってくる。頭をなでてやると、そのままウトウトと寝てしまう。
本当に、おとなしくてよい猫だった。
拾ってから2、3日は。
健康診断をしてもらった3日後、予防接種のワクチン注射のため、再び獣医さんを訪れた。
「元気にしていますか」
と聞かれ、
「元気というか、元気すぎるくらいです」
というワシの答えを聞いたとたん、獣医さんはまた「ニヤッ」と笑った。
「もらわれたり、拾われたりすると、1、2日はどんな猫でもおとなしくしてるんです。『猫をかぶる』とはよく言ったもので、2、3日後には本性が現れます」
⋯⋯そう。「ミャーミャー」鳴いていた、か弱い頼りなげな生き物はどこかへ消えてしまった。今では、野生味溢れるちっちゃなケダモノが、部屋の中を縦横無尽に走り回っている。
「『猫をかぶる』とは、本当によく言ったものですよ。猫が猫をかぶってるんですね⋯⋯とくにこれくらいの月齢の男の子は⋯⋯」
先生、もおええわ。
そんなこと、先に言うてくれやんと!
ワクチンを尻に注射された猫は、一瞬で牙をむきだし、前足を抑えていたワシの手首にひっかき傷をつけた(その日は助手が一人もおらなんだ。運のいい野郎どもだ)。
「3週間後、もう一度注射しますから来てください」
今度はひっかき傷では済むまい。子猫をキャリーバッグに押し込みながら、洗濯ネットを準備しておこう、と考えるワシであった。